「南極日誌」ネタバレ感想。

前述の通り、つかみはバッチリ。スポンサーのロゴまで凍っちゃうとこなんか、けっこうこの映画に対する気合いを感じる。どの海岸線からもいちばん遠い「到達不能点」を目指し、氷の大地を歩く探検隊。それを空撮からグッと捉えるなど、カメラワークもけっこうしっかりしている。突然足下が崩れ、隊員が一人氷の底に落ちそうになるところを抜群のチームワークで助けるあたり、プロフェッショナルな格好良さを感じた。
キャラの描き分けも、隊長(クール)、デブ(イヤミ)、メガネ(理知的)、パンチ(ひょうきん)、若造(優等生)、愛妻家、と、まるで戦隊もののように判りやすく覚えやすい。
南極は半年ごとに夜が訪れる。探検隊は昼の時間である半年の間に到達不能点を目指さなければならない……という普通の“探検映画”と思いきや、道程で発見した80年前の探検隊が残した日誌はページが進むたびに隊員が減っていくということ、鍋をズームすると映る「眼」など、ホラーの匂いが見え隠れしてくる。そして、いちばん個性のない「愛妻家」が最初の犠牲者となる。尿の異変に気付いた愛妻家は徐々に体調を崩し、隊列に追いつけなくなり吹雪の中で消えていく。先程の「眼」に身体を浸食されたのだろうか。
二人目の犠牲者はデブ。隊長が若造に色々依頼するのに嫉妬し、勝手な行動を取ろうとして止めに入ったメガネともみ合いになる。するとまた足下の氷が割れて、独り奈落の底へ。隊長がロープを投げて一度は支えるものの、なぜか隊長はロープを離し、ニヤリと笑う。これはもう、隊長は「眼」に取り込まれているな、と思った。デブが落ちた底に、またもや「眼」が。<あったらしいけどよく見えなかった。
その後も隊長は数々のトラブルに対し無謀な選択肢を隊員に押し付け、是が非にも「到達不能点」を目指そうとする。これはもう「眼」の本体が「到達不能点」に居るに違いない。
途中誰かが氷の底の水に落ちる。防寒服を来ていると誰が誰だかわからない。「また一人減ったか」と思いきや、なんだか幻覚だったらしい。ここで少し「なんか変だぞ」と思った。
メガネが若造に隊長の過去を話す。隊長の息子は10歳のときに自殺していた。息子から「なんか白い人が覗いている」という電話があったのだが、隊長は「男なら強くなれ」とか言って無視、その直後の投身自殺……。
探検隊に訪れる数々の悲劇。近道しようと一週間かけて山を越えるも、たどり着いた先は山に昇る前の場所。これはもう異次元か何かに迷い込んだな、と。
通信も途絶え、体力と気力の限界が訪れたとき、目の前に不気味な廃基地が現れる。そこでは更なる悲劇が。救援を呼べないと解ったメガネは冷静さを失い、一人で少し離れた隣の小屋へ逃げ込んでリストカット。メガネが居なくなったことに気付いた若造は隣の小屋を蹴破って中に入ると、そこには80年前の探検隊たちの死体が。ここら辺カメラワークがむちゃくちゃで何が起きているのかよくわからない。
若造たちが隣の小屋に行っている間、隊長は凍傷で壊死しかかっていたパンチの足を切断。ぎっちょん「ぎゃー!」ぎっちょん「あー!」ぎっちょん「わ−!」。
メガネを抱えて戻ってきた若造は、切り落としたパンチの足を見て笑う隊長を見て殴り掛かった。殴り合う隊長と若造。そのとき一段とヒドくなった嵐が、80年間なんともなかった小屋をご都合よくぶっ壊し、そして誰もいなくなった
……一人生き残った誰かが到達不能点を目指して歩いている。若造だ。そして辿り着いた到達不能点には、過去に一度だけ到達したというソ連探検隊が立てた杭が立っていた。他には何もない。途方に暮れる若造。そこで訪れる「夜の時間」。暗闇と無が若造を襲う。そこへ突然「足音」が近づいてくる。誰だ!? 隊長だ! いやに歩調が早い。これはもう何かに覚醒している。逃げろ! 音楽も川井憲次得意のデロデロストリングスホラー曲だ!「追いつかれる!」と思ったところで追い抜かれる……え? 隊長は到達不能点に向かって走っていただけだった。そこで語られる驚愕の真実。「俺は誰も行かない、誰もいない場所に行きたかった」「ここなら俺を受け入れてくれると思った。でも違った」「お前には俺を止めてほしかった」。
ハイ? 
……えーと、つまり、この旅は、はた迷惑な「現実逃避」ですか!? そんなもんに4人の命を犠牲にして? 足切ったのも冷静な応急手当? デブへの仕打ちは何? 尿の異変は? そもそもあの「眼」は何? いや、それ以前に全滅した80年前の探検隊の記録を記した日誌が、なぜ到達不能点から遥かに離れた海岸線に近い方にあったわけ? 日誌埋めたの誰さ? ……という、これまでいくつも掲げられたホラーテイストな謎の部分ははすべて放り投げられてエンドロールへ。オープニングと同じモチーフの曲だ。同じ曲のはずなのに、オープニングでは期待感に満ちあふれていた荘厳さは消え去り、「けっきょくなんだったのさ?」という非情な現実のみを感じさせる重たいアタック音が劇場に鳴り響いた。
はい。これはホラー映画ではありません。普通の探検映画です。狂気の隊長さんに振り回された、5人の可哀想な隊員を描いた映画です。
あー。