「天使のキス」

〜「ガラスの脳 オリジナルサウンドトラック」tr.3〜
川井サウンドには珍しいアコースティックポップス。ドラム、ピアノ、ストリングスにフルートという爽やかな構成。川井憲次全CDデータブック“K-TREASURE”の、ゆやさんのレビューによると、“初夏の草原を駆け抜けるような爽やかな曲”とある。イントロの静かなストリングスは初夏の夜明けのイメージか。これまたEDC#Aを重ね合わせていくという独特の不協和音が、逆にこれから光が溢れてくる期待感、といった雰囲気を醸し出している。そして爽やかな一陣の風が吹き抜けて曲が始まる、そんな感じ。Aメロの主旋律は弾むフルート。そしてBメロはお得意の伸びやかなストリングスだ。ここら辺は本当に気持ちいい。
本編では飛行機墜落事故に巻き込まれ、その後も眠り続けているという少女に、眠り姫の物語を信じた少年が少女にキスをするためにに野を超え山を越え、毎日病院に通う、というシーンで使用された。画面の美しさと少年の一途な思いに引き寄せられるシーン……が、しかし。その後、手塚治虫の短い原作漫画のシナリオを間延びさせるために、なんと少年が少女のことを数年間忘れてしまい、のほほんと日常生活を続けているという信じられないシーンが付け足され、“少年の一途な思い”という設定が破壊されていたのには驚いた。その間、少年にかわって少女にキスをしつづけていたロリーな医師は、こんな作品でもホラーテイストを忘れない「リング」シリーズの中田秀夫監督ならではの表現か。とにかく原作は短くシンプルに美しいのだが、映画版で付け足された部分はとことん蛇足以外の何者でもなく、“これがガラスの脳??”と首を傾げてしまう、そんな映画になってしまった。
「天使のキス」、この美しい爽やかな曲は“原作漫画の一途な少年”のテーマであって、ツンデレいいんちょとラブコメを演じている学生くんのテーマではない、断じてない。そう思いたい……。